~Side皐示~


俺はうろたえていた。


ノートの落書きを生徒に注意しただけだというのに、思いがけない展開になった。


俺を好きだと?


確かに彼女のことは気になってはいた。


彼女に惹かれるものがあるのに気付いていた。


だが、俺達は教師と生徒だ。


決して結ばれてはいけない運命。


そして、彼女の想いを受け入れられない決定的な理由があった。


それは兄貴…青山謙逸だ。


彼は2回、殺人を犯した。


1回目は家に来たセールスマンを。


そして2回目は仕事仲間を。


どうやら話し合いのいざこざから起きた事件らしかった。


そして、その仕事仲間の名前は源氏虹輝。


つまり今、目の前にいる源氏美綺の父親だ。


4月に初めて彼女に会った時、俺は心臓が止まるかと思った。


同じ名字。


二重(ふたえ)で大きい目や源氏さんにそっくりな口元。


小さな鼻は少し上を向き、まるで雪のように白い肌が魅力的。


写真で見た源氏虹輝さんの特徴と彼女の特徴は、他人にしては共通点が多い。


だから確信した。


「あの2人は親子だ」と。


兄貴が殺した人間の娘に告白される日が来るなんて、誰が想像出来ただろうか。


「ごめん、源氏。お前の気持ちは受け入れられない」


そう、きっとこう言うのが正しいんだって無理に自分に言い聞かせて俺は言った。