流星が帰った後、わたしは棚の上にある埃をかぶったワインレッド色のアルバムを手に取った。


そしてわたしと皐示さんの2人で撮った写真を見る。


それは交際を始めて半年ほど経った頃、公園に行った時のものだった。


目を閉じるだけであの頃のことを思い出す。


「ちょっと待ってよ、皐示さん」


「睡蓮さんが遅いんだよ」


「なっ」


「ハハハ、冗談だよ。ほら」


皐示さんはすっと手を差し出した。


その時のわたしは15年くらい前にでも戻ったような気分になって、その手を握った。


しばらく歩いて、訪れた冬の寒さにわたしは身震いした。


「寒いのか?これでも着ろよ」


そう言って彼は自分の着ていたコートをわたしにかけてくれる。


「あ、ありがとう」


嬉しいのと恥ずかしいのとでわたしは顔を赤らめたんだっけ…。


「…」


もうあんなに月日は過ぎたのに、目を閉じれば思い出すのは幸せな日々と皐示さんの笑顔。


「どのようないきさつがあって離婚したのか…か」


それはね、流星。


わたしがわがままだったからよ。


「あー、うるさいわね。ちょっと黙ってて!」


「睡蓮さん…」


ちょっとのいらだちで八つ当たりした時もあった。


あれ以上、皐示さんを困らせたくなかったの。


嫌なわたしをもう知ってほしくなかったのよ。


子供みたいよね。


だけど母親としてのプライドもあって、本当のことは流星には教えなかった。


このことを過去のことだと笑い飛ばしながら話せるようになるのは、あと何十年後のことだろうか。