~Side睡蓮~


-5月上旬-


「あー、授業参観遅れちゃう」


わたしは水橋睡蓮。


夫の健一郎さんとは離婚し、今ではシングルマザー。


今日は高校1年生になった1人娘の流星の授業参観。


だけど色々準備に手間取ってしまい、まさに遅刻しそうな状況。


新緑がまぶしい街をスーツ姿で走り抜ける。


校門を抜け、昇降口も抜け、靴を脱いだらまた走る。


こんな時はろくなことがない。


ドンッ。


案の定、誰かにぶつかってしまった。


「すみません」


「いいえ、お気になさらないで下さい」


慌てて頭を下げると相手はそう言ってくれた。


なんて凛とした声なんだろう。


そう思いながら顔を上げて、わたしはあっと声を出しそうになった。


なんて綺麗な人なの。


それが第一印象だった。


髪はキラキラと美しく、すらりとした背丈。


まったく無駄がない体つきに、知的な顔立ち。


「あの、どうか致しましたか?」


彼の銀縁のメガネ越しの水晶のような瞳がわたしをとらえる。


それだけで胸が高鳴りそうだった。


「すみません、あなたは?」


って、何を聞いているのだろう、わたしは。


「名前は青山皐示。ここの学校で生物を教えている者です」


優しく微笑み、彼は去っていった。


アオヤマコウジ。


その名前をしっかり胸に刻み込んで、わたしは教室にまた走り出すのだった。