「ありがとな」


先生の言葉に私はニコッと笑った。


彼の腕の温もりが優しくて、いつまでもこうしていたくなってしまう。


「よし、そろそろ行くぞ」


「え?」


もっとくっついていたいのに。


「今日、仕事なんだよ」


「あっ、私もバイトがあるの忘れてた。やっちまったぜー」


「誰だよ、お前」


キャラが変だぞ、と笑う先生の笑顔が朝日に照らされて、いつもより数倍まぶしい。


私は立ち上がった。


先生も立ち上がる。


「先生」


「ん?」


「お姫様抱っこしてって言ったら怒るかな?」


先生は吹き出した。


「やってやってもいいぞ」


先生の顔は酔っ払いみたいな真っ赤な色をしている。


「嘘だよっ」


本当はやってほしかったけどそう言って笑い、私は走り出す。


「こら、大人をからかうなー」


顔色は酔っ払いのままで先生が追いかけてきた。


私だってもう大人だよ、と心の中で言って階段を駆け下りる。


朝の街に出ると、まるで空気が入れ替わったかのようにすがすがしい。


「よし、今日も1日頑張るぞー」


そうして街を走りながら頭の中では、もし私が美綺さんの立場だったらいったいどうしていただろうか、ともう1度考え始めていた。



-完-



ご愛読ありがとうございました。


引き続きスペシャルエピソード(おまけストーリー。睡蓮と皐示、皐示と美綺の出会い、流星と皐示のその後)&エピローグをお楽しみ下さい。