「本当の理由はお前に嫌われるためだったんだ」


「私に嫌われるため?」


私は首をひねった。


「俺が源氏に殺されようとしていたのはもう聞いただろ?」


私はうなずく。


「その時、俺を魔王と思わせればお前は俺に嫌悪感を抱いてくれると思ったんだ。嫌悪感を抱いてくれれば、たとえ俺が殺されても少しは悲しくないんじゃないかって」


「先生のバカ」


直接先生の言葉には答えない代わりに、思ったことをストレートに口に出す。


「うん。バカだな」


「確かに先生が魔王って聞いた時はショックだった。でも、泣き疲れて眠り、目を覚ました時、先生がいないとわかって本気で心配したんだから」


「ごめん」


「先生がいて命が限りあるのと、先生がいなくて限りない命を授かるのとどちらか一方をを選択するなら、迷わず前者を選ぶんだから」


やたらに必死になっている自分がいた。


でもこのセリフに嘘はない。


「先生と離れるなんて考えられないし、考えたくない。どんなことがあっても離婚だって見捨てることだって絶対しないんだからね!」


「…ふ、参ったな」


「?」


「他にも解決法があっただろうに、どうして俺はこんな良き妻を置いて死ぬ気だったんだろう」


先生は不器用な人。


そう思った。


頭脳明晰で容姿端麗。


だけどどこか抜けていて、愛情表現がちょっと下手で、いつもは冷静なのに時々アツくなって極論に走る。


でもなんでかな。


そんな先生をもっとずっと見ていたくなるんだ。