それから俺は晴れて教員試験に合格し、教師の道を歩き始めた。


結局、矢野には会えなかったが生徒に囲まれて忙しくも充実した日々を送っていた。


そんな平和な生活に衝撃が走ったのは、俺が33歳の時だ。


12月。


その日も俺は仕事を無事に終えて帰ろうと準備をしていた。


その時、それまで電話の応答をしていた先生が、慌てた様子で俺のところに駆け寄ってきた。


「青山先生」


「はい」


「お父様からお電話です」


「わかりました」


電話に出てみると、待っていましたとばかりに父の声がした。


「皐示か?大変だ。謙逸が警察に!」


「兄貴が!?」


また何かやらかしたのか。


「どうやら仕事仲間を刺して捕まったらしい」


嫌でも23年前の事件がフラッシュバックする。


消えた両親。


離れていく友達。


なくした信頼。


俺は思った。


また、大切なものを失わなくてはならないのか。


それは嫌だった。


生徒達の笑顔も、まわりの先生達の信用も手放したくない。


だから決めた。


青山謙逸と青山皐示は、まったく関係ない人間だとまわりの人々に嘘をつき通すことを。


兄貴に殺されたのが源氏虹輝(げんじ こうき)-つまり源氏美綺の父だと知ったのはそれから4年後のことだ。