「じゃあ、先生。せめて約束して下さい」


「約束って何を?」


「先生は大学生ですけど卒業してもこの塾にいます?」


「うーん、たぶんいないかもな」


まだ先のことは考えていなかったので答えが曖昧になる。


「では、中学校の教師になってくれませんか?そしたらまた会えますよね」


「えっ」


「先生は3年後、23歳ですから社会人。あたしは3年後、中学3年生です。だから1年は一緒にいられるかもしれません」


「でもその計算でいけば、高校なら運が良ければ3年間一緒かもしれないぞ」


って、なぜ一緒になることを考えているんだ、俺は。


「ええ。しかし、あたしの父が高校の教師をやってるのですが、高校は模試の手配や進路など、中学の教師より大変みたいです。先生、体力なさそうだから倒れてしまったら嫌ですから」


それは失礼な、と言おうと思ったがその言葉の代わりに笑いがこみ上げてきた。


「わかった」


「約束ですよ」


「あぁ、約束な」


矢野のような、自分をちゃんと見てくれる生徒に出会えたことに喜びを感じていた。


この仕事が楽しいと思えた。


そして俺は中学教師への道を志すことにした。


矢野のため、そして自分のために。