「?」


「あたし、本当は違うんです」


「違うって何が違うんだ?」


「先生が嫌いだなんて嘘なんです」


「矢野…」


胸の痛みが、まるで曇り空が晴れるかのように和らいでいく。


「本当は好きです。大好きです」


「俺もだよ。生徒が嫌いな先生なんて、教師失格だもんな」


そう言いながら無意識に笑顔になっている自分がいた。


しかし、矢野は首を横に振る。


「違うんです、先生。あたしは」


「え?」


「あたしは先生を1人の人間として好きです」


「え、あの」


森山が教えてくれたにも関わらず、俺は激しく動揺していた。


告白されるなんて人生で初めてのことだったし、こんな幼い少女に愛される日が来るなんて、森山が矢野の俺に対する恋心を教えてくれた時も想像しようとしなかった。


…いや、きっと。


きっと踏み出すのが怖いのかもしれない。


一線を越える勇気がないから、無理にそうやってこじつけているのかもしれなかった。


いけない、彼女に返事をしなくては。


傷つけないように。


「お前は未来ある子供だ。急いで俺なんかに告白しないでゆっくり、いい奴見つけろよ」


優しく言ったが、全然気を使えていない内容の返事に自分をなじりたくなる。


「あたし、子供なんかじゃありません。先生が好きっていう気持ちは大人にも負けてません」


「矢野」


「あたし、この恋心だけは自信があります」


彼女が思ったよりも強情なので俺はすっかり困り果ててしまった。


押し問答が続き、決着がついたのはそれから30分後だった。