「じゃあ今日はここまで。お疲れさま。また明日な」


胸の張り裂けそうな痛みを抱えたまま、その日の授業は終わった。


「さよならー」


「おう、さよなら」


「先生、また明日」


「あぁ、また明日な!」


「さいならっ!」


「おっ、またな」


「先生、最近は物騒ですから帰り道には気をつけて下さいね」


「ありがとう。お前も気をつけろよ」


「今日の先生、また一段とステキでしたよ」


「そりゃどうも」


思い思いの言葉を残して生徒達が教室からいなくなっていく。


そして最後まで席を立とうとしない生徒が1人いた。


「矢野、どうした?」


矢野はただ下を向いている。


「おい、何かあったのか?話なら聞いてやるぞ」


しゃがんで顔を覗こうとすると、彼女は別の方向を向いてしまった。


困ったな。


いったいどうしたんだ。


その時、彼女の肩が小刻みに震えているのがわかった。


泣いている。


「あー、ちょっと寒かったかな、この部屋。これ貸してやるから」


わざと明るく言って自分の着ていた上着を彼女にかけてやる。


「違うんです、先生」


矢野は目を赤くし、涙を流して訴える。


「ん?それならどうして泣いているんだ?」


「あたし…」