「よし。じゃ、休憩だ。10分後に再開するぞ」


数日後、俺はいつものように授業をしていた。


生徒達がガタガタと音を立てて席を立ち、スキップするような足取りで教室を出ていく。


やっぱり休み時間は嬉しいものなんだな。


また、席から1歩も動かないでノートの余白に絵を描いたり、おしゃべりを繰り広げている生徒もいた。


その中に矢野の姿もあった。


彼女はあれから俺と1秒も目を合わせようとしない。


「ね、先生は彼女いるんですか?」


いきなり矢野の友達の村上亜紀子が聞いてくる。


「はぁ?いねぇよ」


突然の質問にびっくりして口調が乱暴になってしまった。


「わぁ、いないんだあ」


おい、なんだ、その嬉しそうな笑顔は。


そう聞こうとしたが、矢野のセリフを急に思い出す。


「みんな「青山先生が好きなんでしょ?」って聞いてくるけど嫌いです、先生なんか」


そうか、きっとその「みんな」の中に村上も含まれているのかもしれないな。


現に、その村上は「ねぇねぇ、さおりん。青山先生、彼女いないって。良かったね!」なんて無邪気な笑顔で言っている。


矢野は一言「そうなんだ」と、はしゃぐ村上を冷たくあしらう。


こんな子供、気にしなかったはずなのに。


どうして胸が痛むんだ?