「ただいま」


ある日、俺は地獄へと化した学校からいつものように帰宅した。


「おかえり」


いつもなら母がそう言うはずだった。


しかし、その日はなぜか父の妹-つまり叔母、青山紅葉(あおやま もみじ)が家の奥から出てきた。


「あぁ、皐ちゃん。おかえりなさい。あなたを待っていたのよ」


「こんにちは、叔母さん。お1人ですか?」


「ええ。そうだけど」


「あの、僕の母、知りません?いつもなら家にいるはずなんですが」


「そのことなんだけど、あなたのご両親、交通事故に遭って入院しているのよ」


「えっ。入院ですか!?」


突然のことに俺は驚きを隠せない。


「そうなのよ。それで私と栄作さんでしばらくあなたの面倒を見ることになったんだけど、構わないわよね?」


「あ、はい。よろしくお願いします」


こうして俺は動揺しながらも、叔母とその夫の青山栄作さん(彼は婿入りしたので青山姓)-義理の叔父の家に唐突に引き取られることになった。


彼らは俺を本当の子供のように扱ってくれた。


俺もまた、彼らを実の親と思って生きてきた。


しかし高校に上がった頃から本格的に、これはおかしいぞと思うようになった。


もちろん、中学に入った頃から漠然とした違和感はあったのだが、なんだか怖くて聞けなかったのだ。


そこで、ある日、学校から帰って勇気を出して開口一番に聞いてみた。


「あの、母さん」


いつしか俺は叔母を母さんと呼ぶようになっていた。


「何?」


「本当の父さんと母さんはどこにいるの?」