あちこちから人々の声がしたりネオンがきらめいたりして、この街が栄えていることを示していた。


そんな中、俺は早足で目的地に向かう。


この時の俺はきっと恐ろしい顔をしていたに違いない。


「あの人、カッコいいけど怖くない?」


キラキラしすぎて目が痛くなりそうな金のドレスを着た化粧の濃い派手な女が、俺を見て隣のこれまた派手な女に言っているのが聞こえる。


そんなこんなでネオン街を抜け、少し寂しい場所に来ていた。


ふいにケータイが電子音を鳴らす。


いきなりの出来事に驚き、慌ててディスプレイに映された名前を見た。


<青山流星>


「あいつ…」


決意が、抜けかけの歯のようにグラッと大きく揺れる。


今すぐにでも通話ボタンを押して彼女の声を聞きたい。


そして彼女が待つあの家に帰りたい。


帰りたいのに…。


「俺には、もう帰る場所なんて必要ない」


そう呟いて電子音が鳴り終わった直後、ゆっくりとケータイの電源を切った。


画面にカラフルな文字で機種名が映し出された直後、辺りの闇に溶け込もうとするかのように真っ暗になる。


そうしてみても、後ろ髪を引かれる思いが消えてくれることはなかった。


何回はがそうとしてもこびりついて白く残るシールのようにいつまでも、いつまでも。