「先生、ごめんなさい」


ある休日、妻の流星が帰宅して開口一番にそう言った。


「え?」


俺は突然のことに面食らう。


「疑ってごめんなさい。私、先生を魔王だと思っていた」


「流星…」


「でも信じる。先生は魔王じゃないって」


「どうしてそんなことが言えるんだ?」


「先生が好きだから。それ以外の何物でもないよ」


戸惑ってしまう。


なぜそれだけのことで信じてくれるんだろう。


「ずいぶんと曖昧なんだな。仮に俺が魔王だったらどうするんだ?」


あえて冷たく振る舞ってみる。


本当は愛おしくて抱きしめたくて仕方がないくせに。


「私は信じている。先生が魔王だという決定的な証拠が出ない限り、ずっと」


「…」


彼女の目に迷いの色なんてない。


むしろ自信に満ち溢れたような、まるでダイヤモンドのような繊細で、それでいて揺るぎない輝きを放っていた。


「先生、大好き。一時は疑っていたけど私、もう迷わない。だからずっと一緒にいてほしい」


少し困った後、俺は彼女の頭にポンと手を乗せた。


「流星」


言わなくてはならない。


決めたんだ。


「ごめんな」


「え?」


「魔王の正体は俺なんだ」


「今、何て?」


彼女の表情が驚きの色に支配されている。


「魔王は俺なんだ」


「嘘でしょ?」


「いや、本当だ」


「先生!」


彼女は俺の肩をつかむが、俺は目を反らすことしか出来なかった。