「うう…」


目を覚ますと夜中だった。


窓からは満月の光が降り注ぎ、鏡に映る私の顔に陰を落としていた。


なんか似たような光景を見たことがあるような気がする。


あぁ、そっか。


あの17歳のクリスマスイブの夜、目を覚ましたら隣に先生がいた時も月の光が先生の顔に陰を落としていたんだ。


私の体には先生の上着が布団代わりに乗っていた。


抱きしめると先生の匂いが空中にふわりと舞う。


私がこの世で一番愛おしく思う香り。


先生は魔王なんだ。


そうなんだけど、なぜだろう。


先生が戦禍の告白をした出来事が夢のように思えてしまう。


相当な体力を消耗するほど泣いたというのに。


「先生、どこ?」


おぼつかない足でふらふらと先生を探す。


キッチンにもリビングにも浴室にもトイレにも書斎にも寝室にもいない。


夏だというのに虫の気配すらなくて、孤独を感じた。


外には墨汁をたっぷりとかけたかのようなただ黒い世界が絨毯を広げたように広がっている。


ところどころに光るカラフルな灯りが絨毯に出来たムラのように見えた。


「先生!」


叫んでもあの愛しい声どころか虫の羽音も聞こえない。


「どこなのっ?!」


外の闇に心まで浸食されていくような気がした。