「先生、ごめんなさい」


私は帰宅して、ただいまの代わりにそんな言葉を開口一番に言った。


「え?」


先生は意味がわからないというように首をかしげる。


「疑ってごめんなさい。私、先生を魔王だと思っていた」


「流星…」


「でも信じる。先生は魔王じゃないって」


「どうしてそんなことが言えるんだ?」


「先生が好きだから。それ以外の何物でもないよ」


わかったんだ。


母に言われて。


「ずいぶんと曖昧なんだな。仮に俺が魔王だったらどうするんだ?」


先生はまるで自分を魔王と思ってほしいかのような態度を取る。


「私は信じている。先生が魔王だという決定的な証拠が出ない限り、ずっと」


「…」


「先生、大好き。一時は疑っていたけど私、もう迷わない。だからずっと一緒にいてほしい」


数秒後、先生の表情がふっと穏やかになったかと思うと、私の頭にポンと手が乗せられた。


髪を通して伝わる先生の温かさが優しかった。


まるで晴れた春の日に頬を撫でるそよ風のようだ。


「流星」


私の名前を呼ぶ声は慈しみに溢れていた。


「ごめんな」


「え?」


先ほどとは打って変わって、先生は今にも雨が降り出しそうな空のような顔だった。


「魔王の正体は俺なんだ」