「母さん」


あの後、家に入って緑茶をごちそうになっている時に私は言った。


「ん?」


「もし、自分の大好きな人が魔王かもしれないってなったらどうする?」


「魔王?」


首をひねる母に私は今までのことを話した。


「なるほど。で、あなたは皐示さんを疑っているわけ?」


「あ、いや。そうじゃない。ただふっと考えただけだよ」


針のように鋭い視線の母に向かってとっさに嘘をついてしまった。


「うーん…。たぶん、わたしだったらその人のことを信じるわ」


「え?」


「その人が魔王って確定するまでは信じるのよ。現実から目を逸らしたいだけかもしれない。でもこう思ってもいいんじゃない?自分の好きな人に限ってはそんなことをする魔王なはずがないって」


「母さん…」


「わたしの考えは甘すぎるかもしれない。でも、あなたが信じてあげられなくて誰が皐示さんを信じるのよ」


バレていたんだ。


私が先生を疑っていること。


まぁ、いきなりこんな話をしたんだから当たり前か。


「第一、皐示さんはそんなことなんかしない人だわ。たとえ3、4年の結婚生活だったとしてもわたしにはわかるわ」


「ねぇ、母さん」


私は母の言葉が気になったので聞く。


「ん?」


「先生のこと、今でも好き?」


母は小さく笑っただけだった。