-ある休日の夕方-


「ただいま」


「お帰り、先生。今から買い出しに行くんだけど晩ごはん、何か食べたいものってある?」


「流星」


「せ、先生のバカ」


私達は相変わらずの生活を送っていた。


あれから先生の様子はほとんど変わらない。


なぜほとんどという単語を使ったのかを述べると、少しだけは気になることがあるからだ。


さて、回りくどい言い方はやめよう。


単刀直入に言えばあれ以来、先生が妙に優しくなった。


無論、彼は以前から優しかったが最近はその優しさが少し怖い。


まるで今という時間を惜しんでいるかのように見えた。


疑いを晴らすためにわざと優しくするの?


それとも本当に時間を惜しんでいるの?


だったらどうして?


答えは怖くて聞けなかった。


そして数日後、ためらう私を焦らせる事態がやってくる。


「母さーん」


私は久々に実家に戻ってきた。


母の顔を見に来たのだが、出来れば先生のことも相談したかったのだ。


「な、流星」


母は青白い顔で私を迎えた。


「どうしたの?」


「これがさっき届いたのよ」


「!」


母の震えた指がさす先にはあのワインレッドのオルゴールと相変わらず白い封筒と真っ黒な花。


「黒ユリ?」


確か花言葉は…。