「魔王は、あれからどうなりました?」


それから数日後、美綺さんと家で雑談していると彼女がこう聞いてきた。


私は黙って首を横に振る。


何も解決していない。


魔王の正体である人物のしっぽすらつかめていない。


それどころか先生を疑うようにまでなってしまった。


「そうですか」


「ええ」


気詰まりな沈黙が訪れそうだったので、私はわざとらしく髪型を整えてみる。


「あの、言いにくいんですが」


ためらいがちに美綺さんがそう切り出した。


「はい?」


「青山先生、なんだか様子がおかしいような気がするんです」


「えっ」


「どう言えばいいかわからないんですが、奇妙な行動を取っていたりするんですよ。最近」


「奇妙な行動?」


「よくわからないんですけど、たまにぼーっとしていたかと思えばすごく恐ろしい顔をしていたりするんです。他にも色々あります」


「?」


何があったんだろう。


やっぱり先生が魔王?


いや、それだけのことではまったく証拠にならないがなんだか怪しげだ。


今までこんなことはなかったし。


ふいに先生の笑顔が浮かぶ。


あんなに優しく笑う人が魔王なはずがない。


そう無理に思おうとする自分もいた。


そんな複雑な時間は短時間でも長く感じられるもの。


今回もそうだと思っていた。