しかし、先生が魔王だとしたら変なことがある。


第一に、声だ。


首を締められた時は押し殺したような声だったから断定は出来ないが、電話で話をした男の声は明らかに先生のものではなかった。


第二に、あのオルゴールだ。


入院中のことはともかくとして、クリスマスイブのあの夜、先生は私と一緒にいた。


私と先生が食事をしていた時に物音がして、見に行ったらオルゴールがすでにあったので先生に犯行は不可能なはず。


第三に、オルゴールの宛先だ。


先生が魔王だとしたらなぜ自分宛にオルゴールを送ったのだろうか。


いや、声なら変声器を使えばいいし、オルゴールの件だって共犯者がいれば可能だ。


また、オルゴールも自分に送れば、青山皐示は被害者という公式が他人の心に自動的に生まれる。


実際、私もそう思い込んでいて今まで疑おうともしなかった。


あれ?


どうして先生を犯人にしようとしているんだろう。


背中に冷や汗が垂れた。


とりあえず、先生の問いに答えなきゃ。


「なんでもない。ちょっと寝違えちゃっただけだよ」


「本当か?」


「うん。やだなぁ、妻の言うことを信じられないの?」


そう言ってあっはっはっ、と笑った。


バカみたい。


私なんて先生を疑っているというのに、何が妻の言うことを信じられないの?だ。


偉そうに。


「そうか?」


釈然としない表情で先生はその話題を終了させた。


ごまかしたのはいいけど、これからどうしよう。


心の中では先生への疑念が頭をもたげている。


もし、魔王の正体が先生だったら私はいったいどうするだろう。


たぶんその時は…。