「ああ、病院って消灯時間が早いなぁ」


確かに夜更かしは体に悪いけどね。


とりあえず喉の渇きを感じた私は自動販売機に行く。


そして缶入りの緑茶を買って病室に戻った。


枕元の明かりを付けてそれを一口だけ胃に流し込む。


窓の外を見ると虹色のネオンが遠い場所できらめいている。


それはなんとなく手の届かない華やかな世界に見えた。


缶の中を空にすると私は明かりを消し、おとなしくベッドに転がった。


そして窓から入ってくるわずかな光を頼りに左手を見る。


指輪を失った薬指はなんだか寂しく見えた。


それはきっと先生と結婚出来たことが一種の誇りだったからかもしれない。


でも結婚指輪だけが愛の証明じゃないって先生も言っていたしね。


先生がずっと一緒にいてくれればそれだけでいいし、幸せなことなのかもしれない。


そんなことを考えてまもなく私は眠りの世界へと誘われていった。


当直の看護師さんや医師、入院中の患者さん。


夜中でも病院には多くの人達がいる。


しかし、誰1人として気付かなかったことがあった。


この時、誰かがこの病院の廊下を影のように歩いていたことを。


そしてその人が私の病室のドアを音もなく開けたことを…。