「えっ…」


一瞬、時間が止まった錯覚に陥る。


ザワッ、とみずみずしいナチュラルグリーンの葉が駆け抜けるそよ風に吹かれて音を立てた。


その風は病室にも吹き込み、私と美綺さんの髪をふわりと舞い上がらせる。


バラのような香りが漂った。


そんな中、私達は微動だにせず、ただお互いの目を見つめ合っていた。


まるで夜空を走る流れ星を見逃すまいとするように。


美綺さんは表情1つ変えない。


ただ不敵な笑みがうっすらと口元に浮かんでいる。


それは優越感からくる表情という印象を受けた。


緊迫した沈黙が訪れている。


それは少しでも刺激を与えたら壊れてしまう薄氷か何かのように感じられて、息を吸うことすらはばかられた。


「…って言ったらどうします?」


ふいに美綺さんの表情がいたずらっ子のような笑みに変わる。


え?


まさか冗談だったのか。


「なんだ、違うんですか」


「あっはっはっはっ」


からかわれたのが少し悔しいのと恥ずかしいのとで、私の顔は酔っ払いみたいに熱くなる。


私は美綺さんの笑った顔を見た。


なんて上品で優美な笑顔なのだろう。


まるで春霞の中に咲き誇るソメイヨシノを思わせる。


こんな人がもし先生の元カノだとしたら…と考えるだけで劣等感を覚えてしまうのだった。