「失礼します」


あれからしばらくして昼食を済ませた後、ノックの音とともにこんな声が聞こえる。


「どうぞ」


私が言うと相手はそっとドアを開けた。


「あぁ、美綺さん」


そこにいたのは美綺さんだった。


「こんにちは。流星さんが入院していらっしゃる病院、青山先生から聞いたもので…」


青山先生、と聞いて胸の奥がツキン、と痛んだ。


そうだ。


彼女は先生の元教え子。


だけど、先生から聞いたっていうことは先生が美綺さんに連絡したということだよね。


なんだろう、この気持ち。


妻というポジションほど他に勝る地位はないというのに、なぜ不安になるの?


なぜ嫉妬の炎が燃えているの?


「流星さん?」


美綺さんの声ではっと現実に戻る。


「あっ、ごめんなさい。わざわざお見舞いに来て頂いてありがとうございます」


「いえ。それよりどうかされました?」


「なんでもないです」


痛い。


美綺さんの怪訝そうなその視線が。


「えっと、あの…ほ、本日はお日柄もよろしく。かの有名なソロモン王が…」


「???」


何を言えばいいかわからなくなったあまり、意味のわからないことを口走ってしまった。


「流星さん」


「はい」


「いきなりで恐縮ですがあたし、言ってないことがありました」


「え?」


「実はあたし…青山先生の元カノなんです」