「…」


沈黙が走る。


先生は微妙な表情をして頭を抱えていた。


それはさ迷い人のような困惑した目だった。


「ごめん…」


ピンと張りつめた糸のような沈黙を破ったのは先生の方だった。


「お前に「心配なんだ」だの何だの言ってしまったが、こればかりは言えない」


「そんな、どうしてですか」


「前にも言った通りだ。それに…」


「それに?」


「もし、このことがお前に知られたら一緒にいることは出来ない」


「なんで」


私はずっと一緒にいたい。


前に先生が言っていた通り、危険な目にあうとしても先生がいない未来よりずっといい。


それなのにそんなことを言うなんて。


「私…医師を呼んで来ますね」


「おい、待て。まだ傷が」


「いいですから」


止める先生の手を払いのけ、医師を呼ぶことを口実にしてまだ痛む体を引きずるようにしながら点滴とともに病室を出た。


しかし、病室を出た後は悲しくて急に足が動かない。


重力に従うようにストン、と座り込んでしまいそうになったが点滴があるのでこらえた。


ふいにドアの向こうから先生の独り言が聞こえる。


「許してくれ…。自分勝手な俺を。だが、お前を巻き込みたくはないんだ。もうこれ以上、大切な人を失うのは嫌なんだ」


複雑な感情が胸の中で渦巻いていた。