あれ?


なんだろう、この穏やかな感じ。


まるで春の陽射しのように暖かく、やわらかく、優しい…。


私は静かに目を開けた。


いつのまにか眠ってしまったらしかった。


知らない間に雨雲は去って夜空はすっきりとし、月が優しく微笑んでいる。


気付くと隣には青山先生が静かに眠っていた。


その寝顔に月光が差し込んで陰を落とし、顔立ちの美しさが一層際立つ。


先生、私を見つけてくれたの?


こんなに寂しい場所にいたのに?


そんなに自分の髪も服も濡らしてまで私を?


心の中で問いかけても先生の返事は返ってこなかったが、それでも構わなかった。


そんなにびしょ濡れになってまで私を見つけてくれたのが嬉しくて、嬉しすぎて。


しかし、それと同時に罪悪感もわく。


それらの感情は複雑に混ざり、胸の奥から何かが込み上げてくるようだった。


「うっ…先生、ごめんなさい。私のせいで…」


好きな人にこんな目にあわせてしまっては、カッコ悪いどころの話ではない。


そういえば、母はどうしているだろう。


サイレントマナーモードにしていたケータイを開くと、着信履歴が2桁になっている。


すべて母のケータイからだと思ったが、知らない番号もあった。


きっと…。


私は先生のズボンのポケットから見えている彼の黒いケータイに目をやる。


このケータイの番号だ。


先生はまだ眠っている。


よほど疲れさせてしまったようだ。


寝ていると言えども、揺り起こすのも憚(はばか)られて、私はただ隣に寄り添っていた。