「はぁ、はぁ…」


息が切れるほど必死になっても指輪は見つからない。


絶望と疲労感に誘われて川岸に座り込む。


もしかしたらもう少し先まで流されてしまったのかもしれない。


そう考えてまた腰を上げて歩を進めてみる。


川はだんだん深くなり、流れも徐々に早くなり始めている。


しかし、指輪を探すのに必死であまり気にしなかった。


探さなきゃ。


あの小さな銀色の輪が今の先生と私をつなぐ唯一のものに思えた。


「きゃっ」


夢中になりすぎて、ついにはつまずいて石の角で足を切ってしまう。


「痛…」


しかし、痛みにも構っていられない。


血が流れるのも無視して躍起になって指輪を探す。


そんな私に傷の存在を教えるかのように足はズキズキと痛む。


「わかっているよ、傷が出来たことくらい」


誰が聞いているわけでもないのにこんなことを言っている私がいた。


ふいに風が吹いた。


「わあっ」


押すような突風。


足が傷を負っていることもあってか、私はバランスを崩し、川の中に倒れた。


じたばたするが、起き上がれない。


やだ。


助けて。


私はこの時、泳げないことを初めて後悔した。


川岸につかまろうとするが、流れが早くてつかんでもすぐに離してしまう。


死ぬのだろうか。


酸素が供給出来ず、意識が薄れていく。


気絶する寸前、頭に浮かんだのは先生の笑顔だった。