夏の温かい風が私の横を通り過ぎていく。


そんな風とは反対に、ツンドラ気候のように冷えた私の心。


私はまたため息をついて草の上に寝転がった。


どうしてかな。


どうしてすれ違っちゃうのかな。


先生は私を心配し、また、本当のことを知りたいのに教えてもらえなかった。


私は先生を傷つけたくなくて魔王の件という秘密を隠し通し、そして誰かにハメられた。


それだけなのに。


私と先生の間にクレバスのように深い溝が出来てしまったような気がした。


「もう嫌だよ」


呟いてまた川に石を投げた。


「あっ!」


左利きなのが災いして石と一緒に左手の薬指の結婚指輪まで飛んでいってしまった。


ボチャン、ポチャッ。


「大変!」


私は慌てて川に入る。


スニーカーの中に水が侵入してくるが、そんなことに構っている場合じゃない。


「どこだろ」


川底の大小様々な石をかき分けて指輪が落ちた辺りを探す。


しかし、視界に入るのは石ばかり。


見つからない。


焦燥が募る。


まだ昼だったら良かったのだろうが、街灯があるとはいえ暗いので余計に探しにくい。


「な…んで?」


神様も言っているのだろうか。


もう先生とは終わりだって。


そんなの嫌だ。


「なんでよ!」


私の叫びは深い闇を揺るがすほどに響いた。