「えっ」


とたんに魔王の件が頭をかすめる。


「だってなんか最近、様子がおかしいぞ?」


そう言って私の顔を覗き込んでくる。


その水晶のように透き通った目は私を心配しているものの、すべてを見透かしているようにまっすぐな視線を送っていた。


「なんでもないですよ」


「そうか」


そう言ってそっけなく顔をそむけている。


怒らせるようなこと、言ったかな。


否定はしたけど、隠し事をしていることに気付いたかな。


でも、それでも本当のことは言えない。


なんとなく嫌な雰囲気のまま家に着いた。


夕食の準備を始めていると物音がしたので振り向くと、先生は私に背中を向けてネクタイを外していた。


どうりで衣擦(きぬず)れのような音がすると思った。


そんなことを考えながら先生の背中を眺める。


広い肩幅に大きな背中。


Tシャツとワイシャツ越しでも細く引き締まった体つきがわかる。


しばらく見とれていると、先生が首をかしげながらこちらを見ていた。


「どうした?」


「いえ」


先生と目を合わすことが出来ない。


私を見る先生の目は私に対する疑惑の色が溢れていた。


そんな視線から逃れるように背を向けて夕食の準備を再開する。


しかし、心臓が大きく脈を打って集中することが出来なかった。