そのうち、雨の他にも私の手を濡らすものがあった。


私の…涙。


寒い。


寂しい。


また体が頼りなく震える。


「水橋!」


今にもそう呼ぶ先生の声が聞こえてくるような気がした。


いや、実際は求めていただけなのだが。


雨の勢いが強まるのに比例して私の中の「先生」が大きくなっていく。


先生、心配かけてごめんなさい。


先生、フラれてもやっぱり好きです。


あきらめられない。


せめて、会いたい。


今すぐ会いたい。


心の中でどんなに呼びかけても先生は返事をしてくれない。


ただ脳裏に、いつか見た先生の優しい微笑みが浮かぶだけだった。


むなしさと悲しさが増していく。


まるで雨が地面に水溜まりを作るように少しずつ、少しずつ。


私はいまだ橋の柱に寄りかかってしゃがんでいた。


やはり母や先生どころか、誰も通りかからない。


孤独。


それが一番今の私にふさわしい言葉だろう。


帰りたい。


何もなくて、すべてが楽しかった修学旅行の4日間に帰りたい。


一瞬、わがままな思いがよぎった。


しかもこんな時だというのに眠気が襲ってくる。


昨夜、わくわくしすぎて眠れなかった上に今朝、起きた時間が早すぎたのがいけなかったようだ。


「水橋!」


どこからか、また先生の声が聞こえた気がした。


靄(もや)のかかった頭で、届くはずのない想いをなんとか伝える。


「先生、大好きです…」


私の体がゆっくりと草むらに近づいていく。


最後に一筋、閉じた目から光をこぼして。