「あんたなの?オルゴールや変な手紙をよこしてきたのは」


「さあな」


クスクスと笑う声はまさに魔王のように冷淡で非情な性格を思わせた。


「目的は何?」


「それは言えないな。とにかく、警察に言ってみろ。その時はきっと…」


「きっと?」


「お前達は、悪夢を見ることになるだろう。赤いバラよりも真っ赤な悪夢をな。ククク…」


それだけ言って彼は電話を切ってしまった。


狂っている。


明らかにあいつ-魔王は狂っている。


初夏だというのに私は身震いした。


そして複雑な気持ちで帰路についた。


家に着くと真っ先にベッドに飛び込む。


怖い。


これからどうなってしまうのだろう。


不安がじわじわと広がる。


まるで水に垂らした墨汁がしだいに拡散していくようにゆっくりと。


しかし、それから何日経ってもあの電話以来、怪しげな手紙が届くことはなくなり、電話もかかってこない。


以前と変わらない日々が続いていた。


これは魔王の計画なのだろうか。


それともまた別の理由があるのか。


わからない。


そのうち、私はだんだん魔王の存在を忘れ始めていた。


それは7月になってからのことだ。


そんな折、私は新たな出会いを経験することになる。