そんなこんなで忘れ物を持って出かけていった先生を見送り、朝食の片付けを済ませてテレビを見ているとすでに日は高く昇っている。


私は決意して例の手紙達を握りしめて家を出、警察へと歩を進め始めた。


いつもの空。


いつもの街並み。


なのになんだか今日はどこか違って見えた。


しかも、そんなはずがないのに行き交う人々がみんな私を見ているような気さえする。


ドキドキしながら歩いているうちに警察署の前まで来ていた。


深く息を吸い込む。


逃げちゃダメだよ、流星。


私自身を、先生を魔の手から救うにはこれしかないのだから。


そう自分を励まし、警察署の敷地に1歩踏み込んだ時だった。


「好きだよ、このまま抱きしめて…」


ケータイの着うたが鳴る。


ディスプレイには知らない番号。


誰だろう。


とりあえず出てみる。


「もしもし?」


「警察には行くな」


知らない男の声が聞こえてきた。


低く響くような、恐ろしい気分にさせる声だ。


まさかこいつが例のストーカー?


「あ、あんたは誰なの?」


「そうだな、魔王とでも呼んでもらおうか」


人を見下したような、ふざけた口調。


って、魔王?


頭の中にあのオルゴールの「魔王」が流れ始めた。