…ここなら見つからないかな。


私は慣れ親しんだ土手にある橋の真下にいた。


この土手は私が小学生の頃から遊んでいた場所だ。


今は夜だから怪しい雰囲気を醸し出しているが。


夜の闇を映しているのか、それとも辺りが暗いからなのかはわからないが、川の水面は漆黒に染まっていた。


冬を迎えて枯れた草は、冷たく厳しく吹く風と共にガサガサと哀愁のオーケストラを奏でている。


ヒュウ、ガサガサ。


ヒュウ、ガサガサ。


私の耳が捉えるのはこれらの音だけだ。


田舎とはいえ、やけに静か。


ここは市街地とは遠く離れた場所だからだろうか。


きっと私を捜しているだろう母も、先生も、こんな寂しい場所には来ない。


それでいいんだ。


わかっていてここに来たのだから。


なのに心の中はポッカリだ。


それどころか、息を切らしながらここに駆けつけてくる先生の顔すら思い浮かべてしまう。


ねぇ、私はここだよ。


でも私の安いプライドがそう発言することを許さない。


家を飛び出してきた手前、そんなことは出来ない。


ポツリ。


ポツリ。


雨だ…。


その冷たい残酷な空からの使者はたちまち増え、地上にあるものすべてを濡らしていった。


そして更に堰(せき)を切ったかのように勢いを増していく。


独りぼっちってこんなに寂しいものだったんだね。


知らなかったよ。


私はあまりの寒さに身震いした。


寂しくて、悲しくて、ついにこんな言葉が出る。


「来てよ、先生」


今すぐここに。


じゃないと、この気持ちまで雨に流されちゃうよ…。