「呼んで下さいよ」


私は真面目な顔で言ってみた。


そのまなざしに耐えられなかったのか先生は顔を完熟トマト色にしながらごほん、と咳払いをしてぽつりと言った。


「…流星」


「ぎゃーーーっ」


「な、何だよ」


「だって恥ずかしいですよ。恥ずかしすぎて死んじゃいます」


「なんだ、そりゃ。俺の方が恥ずかしいよ。今度はお前の番だぞ!」


半分脅すような声だが、顔は相変わらず真っ赤だ。


「こ…」


「こ?」


聞き返すその瞳は意地悪な悪魔のようだった。


いつもは天使のような笑顔を振り舞いているくせに。


「皐示…さん…」


「何だか本当に照れるな」


「かなり照れますって」


そんな気恥ずかしい空気を破ったのは取っ手が黄緑色の鍋だった。


シュー


「わぁ、吹きこぼれ!」


私は慌てて濡れ布巾を手に走る。


「はっはっは」


「ちょっと先生!笑わないで下さいよ」


いつもの癖でまた先生と呼んでしまう私。


「いや、お前らしいと思ってな」


「それ、どういう意味ですか」


「ドジっていう意味だな」


「もう!」


そんな平和な日々。


でも長くは続かなかった。


この後、私達はある陰謀にじわりじわりと巻き込まれていく。


水面下ではすでに動き出していた影があったのだ。


先生。


あんなことになるなんて誰が思っただろうね?