「私は先生が好きだからです。ただのお人好しでも、妻の義務と思っているからでもありません」


「流星さん…」


「帰りましょうか」


自分で言ったことに恥ずかしくなった私は早足で出口に向かった。


しかし、先生に言ったことに嘘はない。


私は青山皐示という1人の人間を愛している。


それだけだ。


それ以外の理由なんてない。


理屈だってもちろんない。


「記憶を失って俺はなんて不幸な人間なんだろうと思っていました。でも違いますね」


ふふ、と笑っている。


「あなたのような人がいてくれれば、記憶は失っていてもそれだけで幸せなんですね。ありがとうございます。少し沈んでいた気持ちが楽になりました」


「やだ、恥ずかしい」


私はそう言って走り出す。


「あ、ちょっと待って下さいよ」


先生が慌てて追いかけてきた。


「嫌です」


嬉しいことを言ってくれたので、ちょっと意地悪してみる。


先生の困った顔がかわいい。


「あ、先生」


私は走りながらケータイを取り出し、ホトトギスの花の画像を見せた。


「ホトトギス?」


「ええ」


「えーっと、花言葉は確か…」


「別のもありますが『永遠にあなたのもの』です」


そう言って私はさらに足を早めるのだった。