ヒュウと風が音を立てて走り去る。


そんな中、私と来客は沈黙を保ちながら見つめ合っていた。


「…」


本日3回目の気まずい沈黙。


それを破ったのはキッチンから出てきた母だった。


「あっ、いらっしゃい。寒かったでしょ」


それに答えるかのように、来客は表情も変えずにペコリとお辞儀をした。


本当にこの人は…どこまで冷静なんだろう。


「流星。言ってなかったから今、紹介するわね」


嫌な予感がした。


母は父と離婚して今は独身。


じわりじわりと不安が心を侵食していく。


「この男性(ひと)はわたしの婚約相手、青山皐示さんよ」


「…!!」


そう、来客とは青山先生のことだったのだ。


でもまさか、先生の言っていた婚約者が私の母だなんて!


ショックのあまり、足がガクガクと震え出す。


「…驚いた?」


そんな私の様子に気付いていないらしく、母はいたずらっ子のような笑顔を向ける。


うん、驚いたよ。


まさか自分の好きな人が親の婚約者だったなんてね。


先生が家に来るまで微塵も思っていなかったよ。


わかっている。


母にも先生にも罪がないのはわかっている。


だけど…。


「流星!」


こんなのひどいよ。


私は母の呼ぶ声を無視して先生の横をすり抜け、夜の闇に飛び出した。