それからどうしたかはあまり覚えていない。


自分の部屋にこもっていたのは確かだが。


ひたすら青山先生のことを考えて、現実逃避のために寝て。


そんな感じだったと思う。


気付くと外はすっかり夜の闇に包まれていた。


時計を見ると、その長針は文字盤のⅥを、短針はⅠを指している。


「18時5分か…」


その時だった。


ピンポーン。


こんな時間に来客なんて珍しい。


「もう来ちゃったみたい。流星、ちょっと出てくれる?」


母の声がキッチンから聞こえる。


「うん」


…って、え?


「もう来ちゃった」?


母は来客が誰か知っているのだろうか。


もしかしたら、母が誰かをこの時間に呼んでいたとか?


だとしたら一体誰なのだろう。


あっ、もしかして健一郎父さんかな?


疑問符を頭の中にたくさん浮かべながらも急いで階段を駆け下りる。


途中でずっこけてしまったが、手すりがあったおかげで大事は免れた。


と、思ったら今度はブレザーの胸ポケットからケータイが転がり落ちてしまった。


わりと派手な音を立てたので慌てて拾い上げてディスプレイを見たが、異常はないようだ。


一安心したところで板チョコのようなドアを開ける。


「はい、どちら様…」


でしょうか、と言うつもりだったが、その5文字が私の口から出ることはなかった。


代わりに違うセリフが私の口から自然と出ていた。


「ど、どうしてここに…!」