「それにしても医師の考えはすごいですね。まさかあんな考えを持っていらっしゃったなんて」


医師がいなくなった後、しばらくして流星さんは言った。


「そうですね。それにしても、気分があんなに下がってしまった自分にびっくりです。しかも「犯人と戦って死にます」だなんて。俺はまだ死にたくありません」


そう。


俺には守りたいものがある。


確かに戸惑った時もあった。


一緒にいては迷惑じゃないのかと考えたこともあったし、義理の母親との間で揺れたこともあった。


だが、今ならはっきり言える。


俺に向かってやわらかな日差しのような微笑みをくれる、この目の前にいる女性を守りたいんだ。


そんな俺の気持ちもつゆ知らず、彼女は俺の言葉に返事をする。


「仕方ありませんよ。おそらく犯人は、先生の心の弱い部分につけこんだんじゃないかと」


「強さは「誰かを守りたい」と思う優しさから始まる…か。それでは、「守りたいものがあるから死にたくない」と思うのは強いと言えるんでしょうか」


彼女は少し考えてから微笑して言った。


「わかりません。だけど、「誰かを守りたい」という気持ちがあるのは素晴らしいことだと思います」


「流星さん…」


また笑みがこぼれる。


俺はいつか結婚式を挙げた教会に連れていってくれるように頼んだ。


理由を聞く彼女に、照れながら流星さんとの思い出をたどりたいからだ、と言う。


もしかしたらすべてを思い出せるかもしれない。


「やだ、先生ったらそんなこと言わないで下さいよ、恥ずかしい」


そう笑う流星さんがかわいかった。


穏やかな時間というのは経つのが早い。


あっという間に俺達を悪夢のような時間へと連れていってしまうんだ…。