「いいです。いいんです、警察なんか」


「青山さん!」


医師は必死だが、俺は構わずにとんでもないことを言う。


「これが運命(さだめ)だとしたら俺は犯人と戦って死にます」


「そんな」


「やめて下さい。生まれてくるべきでなかった奴の心配なんか」


「…」


俺の言葉に沈黙する2人。


きっと、そうだ。


考えてみれば、兄貴のせいでひどい目にあい、心身共にズタズタに傷つき、おまけに妻達の記憶を失ってしまうなんて、俺の人生はなんてひどいストーリーだろう。


生まれてくるべきでなかったんだ。


だからこんなことになってしまったんだ。


そんな中、医師が口を開いた。


「この世に生まれてきてはならない人間なんていません。どんな人も、生まれてくるべくして生まれてきたんです」


思わず医師を見る。


彼は語った。


人の優しさについて。


「すいません、なんだか話が途中から逸(そ)れてしまいました」


しばらく語ってからそう言う医師に対し、微笑して俺は首を振る。


「いえ」


自然に笑みが出るほど、俺の心は晴れ渡った空のようにすがすがしくなっていた。


「おっと、私は診察があるので失礼します。青山さん、とりあえず安静にしていて下さいね」


「わかりました」


俺が言うと医師は病室を出ていく。


それからしばらく沈黙が続いた。