「それにしても医師の考えはすごいですね。まさかあんな考えを持っていらっしゃったなんて」


医師が病室からいなくなってしばらくした後、私は半ば興奮して言った。


「そうですね。それにしても、気分があんなに下がってしまった自分にびっくりです。しかも「犯人と戦って死にます」だなんて。俺はまだ死にたくありません」


「仕方ありませんよ。おそらく犯人は、先生の心の弱い部分につけこんだんじゃないかと」


そんな私の言葉には直接答えず、先生は私を見つめながら言う。


「強さは「誰かを守りたい」と思う優しさから始まる…か。それでは、「守りたいものがあるから死にたくない」と思うのは強いと言えるんでしょうか」


少し返答に困ったが、私は笑顔でこう返す。


「わかりません。だけど、「誰かを守りたい」という気持ちがあるのは感情を持つ動物、人間ならではの素晴らしさですよね」


「流星さん…」


先生は嬉しそうに微笑む。


やっぱり綺麗な顔。


ヤバい、ちょっとドキッとしちゃった。


こんな時で不謹慎かもだけど只今のドキドキ指数50。


「流星さん、いつか結婚式を挙げた教会に連れていってくれませんか?」


「教会に?」


よく分からなくて首をひねる。


「はい。こんなこと言うのは恥ずかしいんですけど、流星さんとの思い出をたどりたいんです」


「!」


たちまち顔が熱を帯びるのが自分でもわかった。


只今のドキドキ指数128。


「やだ、先生ったらそんなこと言わないで下さいよ、恥ずかしい」


「えー?恥ずかしいのはこっちですよ」


そんな話でその日は終わっていった。


こんな穏やかな時間がずっと続けば良かったのに…。