校門を出てからはただ走って、走って、走った。


通りかかった公園で子供達がボールで遊んでいようが、電線の上でカラスが羽ばたこうが、橋場先生の暗めの水色の車が走る私を追い越して行こうが、気にもとめられなかったし、とめもしなかった。


青山先生に告白してフラれた。


そんな事実に比べれば、先ほど述べたようなことは遥かに小さいことだ。


いつのまにか涙が頬にこぼれ落ちていた。


まさか婚約者がいるなんて考えもしなかったから。


家に着くと母がキッチンからやって来る。


「流星、おかえり」


「…ただいま」


私は気付かれないように素早く涙をハンカチで拭う。


母、水橋睡蓮(みずはし すいれん)は微笑した。


彼女は38歳だが、マロンブラウンのロングヘアーをゆる巻きにしたヘアスタイルのせいか、彼女のはっきりとした目鼻立ちのせいかはわからないが、10歳ほどサバを読んでも十分通じる。


ただ、私の実の父、健一郎とは何かいざこざがあったらしく数年前に離婚し、現在私は母と2人暮らしである。


そんな母は私の顔を見て首をかしげた。


「どうしたの?」


「…なんでもないよ」


「それならいいけど。それより、今日はクリスマスイブでしょ?今年もわたし、腕をふるっちゃうから去年みたいにびっくりしないでよ?」


「うん」


ああ、そうか。


今日はクリスマスイブだったんだ。


いつもだったら嬉しい、母のクリスマス献立も今日だけは憂鬱にすら思えた。