「主人がどうしたんです?」


「急に暴れ始めまして」


「え!?」


嘘でしょ?


出会ってから6年以上経っているけど、そんな先生なんて見たことがない。


「おそらくストレスだと思います。失った記憶を思い出せなくて、やり場のない怒りや葛藤が蓄積していたのではないかと」


医師も混乱しているらしく、困惑した様子である。


「とりあえず鎮静剤を…」


「いえ、その前に」


医師の言葉を遮り、それだけ言って私は病室に足を踏み入れた。


粉々に砕け散ったガラスの花瓶。


これ、小樽で買ったやつじゃなかったかな。


そして花瓶に入っていたはずのコスモスは放り出されて、なんだか悲しんでいるように見えた。


「どうして」


思わず呟く。


そして次の瞬間には大声を出していた。


「先生!」


「流星さん…」


先生のその声は、先ほどまで暴れていたとは思えないほど力がない。


私は先生の元に駆け寄った。


「苦しんでいるのはわかります。でも…行動でしかそれを示せないんですか?だったら私は何のために先生の隣にいればいいんですか!?」


母の言葉も何もかも忘れ、私は先生の手首をつかみながら叫んでいた。


先生は悲しげで困ったような顔をするだけだった。