「…」


帰りの飛行機の中、私は黙っていた。


耳はかろうじて痛くない。


まぁ、経験からして機体が下降体勢になったら痛くなるんだろうけど。


足元にはお土産と思い出で満たされたカバン。


隣の先生は機内サービスのお茶を飲んでいる。


色々考え事もしてしまったが、今回の旅行は楽しかった。


だけど、先生の記憶は戻らなかった。


それが私の中の想いをいっそう強くさせる。


ねぇ、私を思い出してよ。


先生。


そう心の中で言う。


一番思い出したいのは先生のはずなのにね。


私はなんとなく先生の、細身に黒のスーツをまとった体と、すらりと伸びた手足を眺めた。


思わずため息がもれる。


「それにしても楽しかったですね」


私の考えていることを知るはずもなく、先生は微笑しながら言う。


「そうですねぇ」


いきなり話しかけられて戸惑った私の返事はそっけないものになってしまった。


「流星さんが一緒で良かったです」


先生はぽつりとさりげなく嬉しいことを呟く。


「もう、やめてよ。照れるじゃないですか」


そう言ってバシッと先生を叩くと、彼は苦笑しながらも痛そうな顔をした。


今度は力は抜いた方なんだけどな。


って、そういう問題じゃないか。


そんな私の思いに構わず、飛行機は白とスカイブルーの世界を突き進んでいた。


こうして、修学旅行の思い出をたどる3日間の北海道の旅は幕を閉じたのであった。