「なんです?」


何も知らない先生は無邪気な表情を返してくる。


「私っ…先生が」


その時だった。


♪ずっと忘れないよ~


着うたが聞こえてくる。


私のケータイがメールの到着を知らせていたのだ。


中身を見ると、どうでもいい内容のメルマガだった。


「流星さん、さっき…」


「いえ、気にしないで下さい」


先生の言葉を遮り私は顔をそむけた。


何をしているんだろう。


一番苦しいのは先生のはずなのに、私がわがままになるなんて。


自分本位もいいところだ。


「ならいいですけど。行きましょう」


先生に促されて私達は地図を片手に歩き始めた。


「わぁ、きれいですね」


先生がガラス製の透き通った箸置きを手に微笑む。


ここはガラス館。


店には様々なガラス製品が並んでいた。


箸置き、皿、花瓶、オブジェ…。


「先生の方がきれいですよ」


私は半分は本心、半分はからかい気味に言う。


「普通逆ですよね?」


疑問を投げかけるその顔は笑っていた。


「まぁ、いいじゃないですか。そう思うなら先生が言って下さいよ」


「嫌です。いい年齢(とし)した男が恥ずかしい」


そういえば以前、先生に似たようなことを言われたな。


確かそれは遊園地で花火を見た時だった。


「懐かしいな…」


「え?」


首をひねる先生をよそに、私は少しの間、あの時のことを思い出していた。