「いやぁ、夜景すごかったですね。流星さん」


「…」


先生はご満悦だが、私はそれどころではない。


あの後、ロープウェイで下りてきたのでまた耳が痛いのだ。


どんだけ弱いんだ、私の耳は。


「あっ、バス来ましたよ」


先生は相当気持ちが浮わついているらしく、私の様子の変化にはまったく気付いていないようだ。


ちょっと寂しいな。


また25分ほどかけて駅に戻る。


そしてそこからタクシーに乗り、15分ほどかけて本日の宿にたどり着いた。


6年ぶりの風景に胸が躍る。


この旅館は修学旅行の時に泊まったのだ。


いかにも高そうな外見で、その姿は壮大というかなんと言うか、とにかく私はここでも田舎者丸出しではしゃいでしまった。


「わぁ、いつ見てもすごい旅館!」


「流星さん、とりあえず入りましょう」


肩をすくめ、顔を赤く染めながら先生が私を入り口に連れていく。


私は思い出の場所に来た上、あまりの耳の痛さに苦しみを通り越して変にテンションが上がってしまっていた。


「きゃあ、懐かしいなぁ」


あの時と同じく、和室と洋室が1つずつくっついた客室。


嫌でも修学旅行のことを思い出す。


私は先生の反応が気になるので、修学旅行の時に友達と言っていたことを口にした。


「すさまじきもの、弁当に入(い)りたるハムツカツ」


「ハムツカツ?」


先生は首をひねる。


「すさまじきもの、弁当に入りたるタルタルソース」


実はあの時、清少納言の『すさまじきもの(意味は期待外れなもの、もしくは残念なもの)』を習ったばかりだったので、まわりにあった『すさまじきもの』をこのように言っていたのだった。