「…何を笑っているんです?」


「あ、いやいやいやいや」


まさか先生がストラップをケータイにつけてニコニコしていたのを想像していたなんて、絶対に言えない。


「それよりこれ、どうぞ」


先生が先ほどのストラップが入っている小さな紙袋をくれた。


「あっ、ありがとうございます」


まさか私にくれるなんて。


さっきは変な妄想してごめんなさい。


「そろそろ出ます?」


先生の問いに私はうなずいた。


「そうですね」


外に出るとやはり風がものすごい勢いで辺りを駆け抜けていた。


横殴りの風なので全身の力を抜いてぼんやり立っていたら、数メートルほど吹っ飛ばされそうだ。


なんて考えて右を見ると、先生はすでに駆け出していた。


「ちょっと待って下さいよー。美しい夜景を独り占めする気ですか」


そんなセリフを発しながら先生の後を追いかける。


「うわぁ」


「おお」


6年ぶりに見た夜景は、相変わらず言葉で言い尽くすことが出来ないほど美しかった。


夜の闇と街の灯りと漁り火の織りなすハーモニーとでも言うべきだろうか。


まるで真っ黒のじゅうたんの上に、キラキラのビーズをたくさんぶちまけたかのようだ。


地上の天の川と言ってもいいかもしれない。


「すごいですね」


「ええ」


私達は時間を忘れてそれに見入っていた。