「はぁ…」


私はため息をつきながら気晴らしに屋上に行った。


いつもなら何人か人がいるのだが、珍しいことに今日は誰も見当たらない。


視界にはグレーに滲んだ空が広がっている。


建物の群れのグレーと重なってなんだかもの寂しい色の世界だった。


だから鮮明だった。


振り向くと、ベンチの隣に立った青の上着に白のロングスカートという服装の女性が目に入ったのが。


嫌な予感がして私はその人に近寄った。


「母さん!」


「?!」


母はぼんやりしていたらしく、驚いた顔でこちらを見る。


「ああ、流星」


その声はひどく疲れているようであった。


「流星。わたしね、皐示さんのことを忘れられないの」


「…」


こんな鬱々とした母、私の知っている母じゃない。


「母さん、どうしちゃったのよ。おかしいよ」


「好きなの」


「え?」


「わたし、皐示さんが好きなのよ。きっと、死にでもしない限り直らない。死なない限りあなたの邪魔になってしまう」


それを聞いて私の頭の中に鮮明に映るのは、先ほど見た母を抱きしめる先生。


しかしその直後、私は首を横に強く振る。


「なんてこと言うの。冗談でもそんなこと言うもんじゃないでしょ!!」


私はいつになく母を怒鳴りつけた。


「なんで娘の前で死ぬとか邪魔とか言えるの?誰も言ってないじゃん!」


「そうね」


「だったら…」


「ねぇ」


首を振る私を遮るように母が強く言う。


その顔は恐怖すら感じた。