パタッ、パタッ。


洗面台に雫が落ちる。


それは蛇口から滴る水ではなく、わたしの涙だ。


視界はすでに靄に覆われてしまったかのように、すべてのものの輪郭がはっきりしていなかった。


苦しい。


この状況をなんとか打開したいのに。


流星を裏切りたくないのに。


皐示さんが好きという気持ちが溢れるだけ。


嫌なわたし。


ガチャ。


誰かがトイレにやって来た。


泣き顔を見られたくなくて、鏡を見る。


そこに映っていたのは今、一番会ってはいけないような気がしていた人だった。


「な…流星」


彼女はわたしに気付くとはっとしたような顔をしたが、悲しみの色が満ちた表情で何も言わずに出ていってしまった。


その態度を見て、わたしは悟った。


きっと、流星は見てしまったのだろう。


皐示さんがわたしを抱きしめているちょうどその瞬間を。


「どんな顔をして会えばいいの…?」


流星にも、皐示さんにも。


わたしの行き場は完全になくなってしまったように感じられた。


1人ぼっちのトイレ。


まるで誰もいない世界にいるみたい。


寂しさと苦しさのあまり、頭がおかしくなってしまいそうだった。