それから少しして、流星さんと睡蓮さんは病院内のコンビニへ昼食を買いに行ってしまった。


病室には俺1人だけ。


窓の外の世界では、今日も青空が、乗ったらふかふかしていそうな白くて小さい雲をいくつか浮かべている。


こうしている間にも胸の奥はまた熱くなる。


睡蓮さんのことが頭の中を占領しているからだ。


俺はなんて不謹慎で罰当たりな人間なんだろう。


いくら記憶をなくしているとはいえ、妻を差し置いて義理の母親に心を奪われてしまうなんて。


もしかすると、俺の中の「愛」という感情は歪んでいるのではないか。


そんなことも考えてしまった。


その時だった。


「調子はどうです?」


睡蓮さんが入ってきた。


その例えるなら百合の花のような清純な笑顔に、俺はまた見とれてしまう。


「あの」


「はい?」


不思議そうに聞き返すその瞳は、まるで何も知らない無垢な少女のようだった。


脳裏に一瞬、見た記憶もないのに流星さんの涙を流している顔がちらつく。


そうだ。


彼女は俺の妻。


一番に愛情を注いでやるべき女性(ひと)。


それはわかっている。


わかっているのに。


「…睡蓮さん」


気付いた時には、睡蓮さんは俺の腕の中だった。