少しばかり妹の紹介をしておくと、彼女は小学生であり、私が長男を務める3兄弟の末っ子である。私とは年が5つ離れており、必然的に3兄弟の中で1番幼い。ただし恋愛やいわゆる「イケメン」の方向には非常に発達しており、時に槍の如き発言を般若よろしくこちらに向けてくるお茶目な一面も持ち合わせている。
それゆえ、
「お兄ちゃんは海は楽しみ?」
と言った、小さな子供と20代の恋愛女性のような深く、それでいてどうでもいい質問も軽いノリで放ってしまう。
ここで私は少し考えた。先に結論を言えば海は楽しみである。楽しみでなければそもそも毎年律儀に海への旅行にはついてこない。そもそも海のない長野に住んでおいて海を楽しみにしない阿呆はいない。長野県民は大地や山、琵琶湖など讃えている場合ではなく、海を讃美するべきなのだ。
とは言え、ここで「楽しみだよ」なんて歯を覗かせながら笑ってみれば、年上の威厳はどうなるだろうか。無論丸潰れである。
一般大衆はおそらく考え過ぎでは? なんて思うのだろう。そうに違いない、なぜなら私もそう思っているのだから。ただ17年間の経験からもう1人の私が「よく考えなさい」なんて仰るのだからここは考えるべきポイントと判断せざるを得ない。
なんて考えていると、妹の顔に不安が着陸して侵攻を広げていることに気付く。
このままではまずい、そう思った私の口が咄嗟に放った言葉は、
「楽しみだよ」
であった。

