長野を離れ、静岡の浜名湖へと向かう、それなりに年季の入った黒いエスティマが高速道路を走っていく。
乗っているのは5人の家族。40代ごろの夫婦と男2人、少し小さな女の子が僅かな振動に揺られ、長い道のりの先を見つめている——
私は車窓の外を眺めている。
旅行となれば毎度のことであるが、やはり私は終わりの見えないアスファルトの直線に退屈を覚えていた。旅行は嫌いではない、むしろ好んで参加する性格である。特別思春期特有の家族拒否症を患っているわけでもない。むしろ家族を大切にする性格である。
しかしながら、ただ単純に、自動車による移動がつまらない。
超高速で後ろにスライドしていく景色は決して楽しめるものではないし、そもそも高速道路付近の景観など雑草植物園に過ぎないのであって、今回も例に漏れてはくれなかった。
車内には妹の趣味であるジャニーズ系の音楽が流れている。たかがBGMに何かを期待していたわけではないものの、わざわざ男性が好んで聞き入るものでもない。仮にこれを熱狂的に耳に味わわせる男性がいたならば、少なくとも私の周囲の環境ではそれを「変質者」と呼称する。
仕方なくiPodの電源を入れ、イヤホンを耳に装着してみたものの、聞き慣れた曲ばかりですぐに飽きてしまう。何かしらの道具であれば慣れは技を生むものの、音楽に対する慣れは私に新たな退屈を覚えさせた。
私はまた、窓の外を眺める。今度はイヤホンを付けている。
ふと、車内に視点をずらすと、前の座席に座る妹が何か言いたげな顔で私を見ていた。おそらく隣に座る思春期驀進中の弟には相手にしてもらえなかったのだろう。
私はもう一度、窓の外の風景に振り返り変わらない雑草群を確認してから、イヤホンを外して妹に声をかける。
「どうかした?」

