たくやとの約束の日。
私はワンピースにデニムのジャケットを着て
カラオケ店に向かった。
心を落ち着けるためにお気に入りの
香水をつけてたくやを待った。
「よっ!」
笑顔で現れたたくや。
メールは毎日していたものの、会うのは久々。
トクンッ…。
胸が少し変な音をたてた。
受付を済ませ、部屋に入る。
「かなの歌聞くの初だなぁ。」
緊張して何も言わない私に
気を使ってか、たくやは
色々言葉をかけてくれた。
「どっちから歌う?」
「あっ、たくやから!」
「しゃぁねぇなぁ…。」
たくやは曲を入れるとマイクを手に取った。
軽く咳払いをして歌い始める。
「…♪〜♪」
私はすっかりたくやの歌声に
心を奪われてしまった。
落ち着いてるけど声量のある歌声で、
のびのびと歌うその声は
今まで聞いた中で一番かもしれない。
歌で恋に落ちるなんてないと思ってたけど
たくやの歌は別格だった。
それまでは知らない曲だったのに
たくやのお陰でこの日から
私のお気に入りの曲になった。
「…どうだった?」
「すごい!ちょー上手い!」
苦笑いしながら聞くたくやに
満面の笑みで答える私。
「おっそれはよかった!次はかな〜。」
「上手い歌の後は歌いずらいなぁ。」
「気にすんなって!」
歌いずらいと言いつつ、
さっきまでの緊張なんて
たくやの歌で消えてしまった。
「〜♪〜♪」
十八番の曲を歌い終わると
小さな拍手が聞こえた。
「かな、上手いじゃん!」
「や、恥ずかしいし…。」
「ちょー綺麗な声だった!」
「あっありがとう…。」
顔が赤くなるのがわかる。
歌を誉められて恥ずかしいのか、
たくやと一緒にいるからなのか、
私にはわからなかった。
でも一つだけわかったこと。
今日ではっきり
自分の気持ちに気付いた。
いや、気付かされた。
それと同時に罪悪感にも襲われた。
できればなるべく
気付きたくなかったこの気持ち。

